
からすみのある食卓Around the table
チーズと生ハムの隣に、薄く切ったからすみを数枚。いつもの盛り合わせが、その夜だけの一皿になります。宮崎の、寒ボラの卵。そう言える一皿です。
宮崎・日向灘の寒ボラの卵を、塩だけで。 およそひと月かけて仕上げる、からすみです。 大根に添えて。パスタにのせて。 からすみがあると、自然と話がはじまります。 「これはなに?」そんな声が、聞こえてくる。
Salt-cured mullet roe from the Hyuga-nada sea, Miyazaki.
「日向(ひむか)」は、宮崎の古い呼び名。日に向かう国、という意味だと伝えられています。神話の残る土地です。
冬、黒潮の流れる日向灘に、寒ボラが入ってきます。ボラは育つにつれて名を変える出世魚。海を渡り、卵を産み、次の代へ命をつなぐ魚です。
その真子を、塩だけで。宮崎からすみは、この海から生まれます。
Hyuga — the land facing the sun. Winter mullet, carried by the Kuroshio.
血を抜き、塩をあて、塩を抜く。あとは風にあずけて、ただ待つ。仕上がりまで、およそひと月。
なかでも血抜きは、いちばん神経を使う工程です。残れば生臭さが出て、やり直しはきかない。塩をあてたあとは無垢の杉板にはさみ、重しをのせて、静かに寝かせます。
醤油も、みりんも、アルコールも使わない。「何で味をつけているの?」と聞かれたら、答えは「塩だけ」。
Salt. Patience. One month. Nothing else.

チーズと生ハムの隣に、薄く切ったからすみを数枚。いつもの盛り合わせが、その夜だけの一皿になります。宮崎の、寒ボラの卵。そう言える一皿です。

茹でたてのパスタに、刻んだからすみを和える。仕上げに、軽く焼き目をつけた薄切りを数枚。和える分と、のせる分。ひと腹から、二通りに。

炊きたてのごはんに、バターをひとかけ。とけはじめたところへ、からすみパウダーをひと振り。塩気と旨みが重なって、思わず、もう一口。

冷たいざる蕎麦に、白髪ねぎと、からすみパウダーをたっぷり。つゆにくぐらせても、そのままでも。品書きに一行あるだけで、目が止まる。

殻付きの牡蠣に、角切りにしたからすみと、パウダーを少し。粒の大きさを変えて、ふたつの食感を。

焼き上げた牛肉を切り分けて、からすみパウダーを上から。塩のかわりに、からすみで。赤ワインを開けた夜に。